高齢期の心にひそむ「うつ病」のもと。 |
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高齢期の心には、若い頃にはない2つの特徴が挙げられます。
ひとつ目は、年齢とともにいろんなものを失っていく「喪失体験」の増加。主に「心身の健康の喪失」「経済的基盤の喪失」「社会的なつながりの喪失」「生きる目的の喪失」の4つに分けられます。これは、年をとれば否応なく失っていくもので、無意識の中に眠る「うつ気分」の原因と考えられます。
ふたつ目は、高齢になればなるほど、もともと持っている性格が色濃く出てくる「性格の尖鋭化」です。よく「年をとったら丸くなる」といいますが、本当はその反対。”お人好しな人”は”もっとお人好し”に”頑固な人”は”より頑固”にと、その人本来の人格が引き出されてくるのです。じつは、この2つの特徴こそ「うつ病」の基盤になる要素。大切なものを失っていくなかで、本質的な自分とどれだけうまく向き合い、乗り越えられるか。これが重要な鍵を握っているのです。 |
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うつ病になるきっかけは人それぞれ。 |
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さらに、うつ病の引き金になる事柄も人それぞれ。たとえばボランティア精神旺盛で、自分の犠牲を省みずに何かをやり遂げてきた人は、深層心理に「評価されたい」という欲求があると考えられます。こういう人は、陰で悪口を言われたときに深く傷つき、うつ状態になりかねません。また、毎日を子育てに費やしてきた人は、子どもが巣立ったとたんに目的を失い、喪失感からうつ状態になることもあります。
つまり、その人の生きざまや歴史によって、引き金になることもさまざま。経験したことのない状況に立たされたとき、その反動からうつ病を引き起こすことにもなるのです。また、体の不調から情緒不安定になり、うつ病になることもあります、病気や骨折が原因で寝たきりになることがありますが、これも一概に体の具合だけが原因とは言えません。身体的な問題に加え、本人の精神状態や家庭環境などの悪条件が重なったときに「寝たきり」になる可能性が高いのです。心と体は表裏一体。健康な心にためにも、健康な体を維持していくことが大切だと言えます。 |
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高齢期の場合は身体症状がほとんど。 |
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うつ病が心と体に深く関係しているように、症状も「精神」や「身体」という形であらわれます。精神症状は「落ち込んでいる」「やる気が失せている」「眠れなくなっている」などの周りが見てもわかる症状。毎日の習慣を突然やめた場合も要注意です。
また、高齢期のうつ病に最も多いのは、自律神経からくる「動悸」や「頭痛」などの身体症状。内科で異常なしと判断されても、不調を訴えるときはうつ病の可能性大。心療内科や精神科で受診することをおすすめします。 |
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予防に必要な毎日の心掛け。 |
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うつ病を予防するには、心に密接な関わりのある自律神経を刺激することが大切です。その方法として5つのことが挙げられます。 |
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(ストレスの発散) |
好きなことをほどほどにやる
(自律神経への負担を軽くする)。 |
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(適度な運動) |
腹式呼吸やウォーキングなどの軽い運動をする(自律神経を鍛える)。 |
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(質の良い睡眠) |
早寝・早起きのリズムを身につけ、熟睡をする(自律神経を休める)。 |
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(歴史小説を読む) |
荒唐無稽でない想像力をかきたてる本を読む(自律神経の活性化)。 |
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(ときめく気持ち) |
わくわく・どきどきする気分を大事にする
(自律神経を刺激する)。 |
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ストレスをためない工夫はもちろん、いつまでもいろんなことに興味を持ち、若々しい気分で過ごすのがうつ病予防につながると言えるでしょう。 |
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大切なのは受けいれて共感すること。 |
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うつ病にさせない一番の予防法があるとしたら、高齢期の家族を「孤独にさせないこと」です。大事なのは、家族や身近にいる人がふだんから話に耳を傾け、相手を受けいれる姿勢を持つこと。
もしも体の不調を訴えてきたら、「私にはわからないけど、きっと苦しいんだろうな」という共感する気持ちを大切にしましょう。それを言葉にすることで、「私には味方がいる」「誰よりもわかってくれる人がいる」という安心感が生まれ、ひとりぼっちではないという自信がつくはずです。そして「どこかおかしいな」と感じたときは、早めの受診をすすめてください。
ほとんどの場合は、発症から数ヶ月の間に治療をすれば、薬やカウンセリングで治ります。病院を上手に利用しながら、いきいきと話せる環境を整えてあげることが大切ですね。 |