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うつ病について :西日本新聞の「ドクターに聞く」の取材から
落ち込みが戻らない―体調不良も引き起こす―
Q いったいどのような病気なのか、ストレスが多い現代社会では、ふさぎ込んだり、体調に影響するほど悩むことは、程度の差はあってもどんな人にも起こりうると思うのですが。
 生活していく中で悩んだり、落ち込んだり、憂うつになったりすることは当然あります。普通は、その状態から必ずいつもの状態に戻るのですが、何かのきっかけで元に戻らないことがある。そういう感情が概ね2週間以上続く、改善しない、もしくはより悪くなるとき、うつ病と診断をします。
 ただ、診断には、その方の普段の状態と比べての判断が大切です。もともと明るい方は、少しでも元気が無くなれば落ち込んでいるのかもしれないし、もともと神経質で物静かな人は、それより沈んでしまっているのかなどを見極めなければなりません。
 また、大きく分けて9つほど診断基準がありますが、気分の落ち込み・憂うつ感、物事に対する興味が薄れる、このいずれかの感情が必ず存在します。ほかにいろいろな症状がありますが、睡眠が悪くなる。これは不眠だけでなく過眠もあります。食も、食べれなくなる場合と過食の場合もあります。主観的な自分の感情面では、自信欠乏や「職場に迷惑をかけているのではないか」などという自責の念が出てきます。
 さらに、身体症状として体の具合の悪さも出てきます。実際には、体のどこかの具合が悪い、痛いなどの症状があるけれども、原因の病気が分からず、診断してみたらうつ病だったというケースが多くあります。
 いずれにせよ、普段と比べてどうかということに注意すべきで、散歩に必ず行っていたのに行かなくなったとか、毎朝、新聞を必ず読んでいたのに読まなくなったとかいったことが、実は発症の初期であったということがよくあります。
Q
憂うつ、やる気がないということで「5月病」「6月病」という言葉がありますが、素人目には同じような症状に思われますが、これは、うつ病とは違うのですか。
 一般的には、「5月病」「6月病」というのは、状況に適応していく上でのストレスからくる反応です。適度なストレスがあって、われわれの心と体は動くのですが、何らかのきっかけでストレスに対応できなくなる。どんどん適応できなくなっていくときに起きる「適応障害」、これが「5月病」「6月病」です。だから、原因がはっきりしているわけです。
 「適応障害」は、ストレス原因に遭遇して3カ月ぐらいで起きてきます。入社・入学して1―2カ月たった5月、6月に反応が出ますが、乗り越えてしまえばなんと言うことはないのです。うつ病と違うのは、ひどい時でも、その状況から外れる、つまり環境を変えてしまうと、おおむね半年で治るということです。ただ、そのまま悪化してしまうとうつ病へ移行することもあります。
「うつ病」のメカニズム―神経伝達物質に障害―
Q
うつ病のメカニズムは明らかになっているのでしょうか。
 だいたい解明されていますが、精神医学の世界では、あくまでも仮説とされています。なぜなら脳内のことで見えるわけではありませんし。ただ、ほぼ間違いなく分かっているのは、脳の中の神経伝達物質(神経から神経へ刺激を伝える物質)が、何かの原因で働かない、減ってしまうという失調状態に陥っているということです。神経伝達物質の中でも、セロトニン、ノルアドレナリンという二つの物質が、うまく働かなくなります。
 では、なぜ働かなくなるのかというと(1)性格やストレスからくる心因性(2)原因は良く分からない内因性(3)身体因ともいわれますが、ほかの臓器の悪さからくる外因性―の3つが考えられ、これらが複雑に入り混じって起きてくるわけです。

効果的な新薬次々に―副作用も少ない―

Q
では、神経伝達物質を活性化させることが、効果的な治療になるのですね。
 そういうことです。軽度のうつ病が「心の風邪」といわれているのは、風邪と同じように「だれでもかかる可能性があり、きちんと治せる病気だ」という意味合いです。きちんと診察を受け、きちんとした薬を、正しく服用すれば治りますよということです。次々に新しい薬ができてきており、症状は劇的に改善します。
Q
そんなに効果のある新しい薬というと副作用の心配は無いのですか。
 昔からの薬も、新しい薬も治験データを取っているので心配はなく、特に最近の薬は、副作用が少ないのです。昔からの抗うつ剤や安定剤は、のどがかわく、手が震えるなどの副作用が若干あったのですが、セロトニンとノルアドレナリンをコントロールする、最近のSSRIとSNRIといった薬は、副作用が少なく使いやすいのです。100人の方に使用したとしたら、数人の方が少しむかつきを覚える程度です。依存性や内臓への悪影響もありません。
 効果的な薬とともに、症状の程度にもよりますが、もちろん心理的療法も併用します。患者さんとの会話ということになりますが、まず、お話を聞くというのが第一で、こうしなさい、ああしなさいということは避けます。お話を聞く中で、いいと思われることは強く同意します。ストレスや心の負荷は、話し始めることで無意識下から現れ発散されます。これが大事なことなのです。
 また、症状が治まっていく過程で、維持療法も大事です。うつ病の薬は、必ず効きますが、効果の発現まで時間がかかります。2週間程度で効果が出始めます。うつ病は再発しやすい病気でもあるので、よくなっていく過程、あるいは症状が改善して半年から1年の間の維持服用も欠かせません。薬とは別に、日常生活の中でストレス要因を減らす対処法も必要です。

頑張ろうは逆効果―周囲が気をつけること―

Q
家族や職場など周囲も含めてアドバイスを
 大切なのは適切な薬と治療、しっかり休養すること、しっかりとした周囲のサポートです。サポートとは、励ますということではありません。励ましは、その人の気持ちを追い込みます。励ましにこたえたいけどこたえられない、自分を責める、申し訳なく思うといった悪循環になります。気分転換にと、無理に外へ連れ出そうとするのもよくありません。「頑張ろうね」といった言葉は逆効果で、励ますより温かく見守ることです。
 それと、日本ではよくあるのですが「薬はなるべく飲まないほうがいいんじゃない」というアドバイスもいけません。血圧が高くて危険な人が、血圧を下げる薬を飲むのを止めないのと同じです。病気を治すために必要な薬は飲まなければならない。まとめて飲んだり、勝手に服用をやめないよう周囲も気を配ってください。
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